概念
精巣は通常胎生期に腹腔背側部から下降し、陰嚢内に到達する。停留精巣(睾丸)は、精巣が途中で留まってしまう病態である。1) 停留精巣の頻度は出生体重と相関があり、出生時体重900g以下では100%、1800g以下では65%に認められる。また、成熟児では2.7~3.4%、1歳児では0.2~0.8%であり、その後ほぼ頻度の値は変化しない。生後精巣の自然下降は起こりうるが、その時期は9ヶ月までといわれている。(図1)

 

診断
陰嚢の大きさや陰嚢部の膨隆の有無を観察した後、触診にて精巣の大きさ、位置、左右差を調べる。診察時には患児の緊張を解き、暖めた手で触診する。移動性精巣との鑑別のため、入浴時や睡眠時に精巣が陰嚢底まで下がっていないか両親に調べてもらうのもよい。腹腔内精巣や精巣欠損が疑われた場合には、位置確認として超音波検査や磁気共鳴映像法(MRI)が有効である。
また、最近では腹腔鏡による検査が有用との報告もある。(図2)

 

分類
  • 移動性精巣
  • 精巣が鼠径部と陰嚢内を自由に移動しうる状態であり、挙睾筋の過緊張や精巣導帯
    による睾丸の陰嚢内への付着が不完全なためにおこる。
  • 異所性精巣
  • 精巣が正常の下降経路からはずれた位置にある状態で、精巣導体の退化の異常により起こる。主な部位は浅鼠径窩、大腿部、恥骨上部、会陰部などである。
  • 精巣欠損(無形成)
  • 右精巣欠損の腹腔鏡写真を示す。(図3)

 

合併症
  • 精子形成障害(不妊症)
  • 停留精巣では組織学的に精祖細胞の減少、精細管腔の狭小化、間質組織増殖などの病的変化が認められる。また、その変化はすでに1歳または2歳頃より始まり、加齢により進行するという報告がある。1) 不妊症の発生率は、片側の停留精巣で手術を受けた場合約30%、両側性で約50%であり、手術によって発生率は低下するという報告がある一方、早期手術による妊孕力の改善に悲観的な報告も多く、意見が分かれるところである。
  • 精巣腫瘍
  • 停留精巣では、悪性化する危険性は正常精巣の20から40倍高い(10万人に48.9人)。2) また、精巣腫瘍の約10%を占めている。
    部位別では、高位ほど危険性は高く、腹腔内精巣は鼠径部精巣の約5倍高い。腫瘍の発生年齢は15から35歳(平均32歳)である。
  • 鼠径ヘルニア
  • 停留精巣では、鞘状突起が開存したままのため、鼠径ヘルニアを合併する率が高い。
  • 精巣捻転
  • 正常の精巣と同様に、精巣が成長する思春期以降に精巣捻転が起こりやすくなる。また、悪性化を伴う場合には、正常精巣と比べ危険性は高くなる。

 

治療
治療時期に関しては、精巣の組織障害が早期から認められることから、1歳台に行った方がよいという意見が主流である。治療法としては主に以下の2種類がある。
  • 手術療法
    精巣が触知できる症例では、通常の手術(精巣固定術)によって陰嚢内に下降させ得るが、腹腔内精巣などの高位の症例では、特別な手術方法が選択される。
    1. 精巣固定術
      皮膚割線に沿って鼠径部に横切開をおく。精巣を確認できたら、周囲組織から剥離をすすめ、精索から精巣動静脈と精管を十分に剥離し、鞘状突起(ヘルニア嚢)を高位結紮する。
      次に、陰嚢底部に切開を置き、皮膚と肉様膜の間にポケットを作成する。陰嚢切開創と鼠径管との間に皮下トンネルを鈍的に作成し、精巣を引き下ろして先ほど作成したポケットに収納する。最後に陰嚢部と鼠径部を閉創して終了となる。
    2. その他の方法
      通常の精巣固定術が困難な症例には以下のような方法がある。精巣血管と精管及びその周囲の血管との間に交通があることを利用して、精巣への血流を精管及びその周囲の血管から期待し、精巣動静脈を切断して延長をはかるFowler-Stephenes法や、2段階にわけて手術を行う2段階手術法、マイクロサージェリーを用いた精巣自家移植術などである。
  • ホルモン療法
    治療の目的は陰嚢内に精巣を下降させることであり、1975年までは絨毛性ゴナドトロビン(HCG)が用いられ、それ以降は下垂体刺激ホルモン(GnRH)が主として使用されている。しかし、欧米を中心に行われているが、報告者によりその効果にかなり差が認められることから、わが国ではあまり一般的ではない。3)

 

豆知識
停留精巣は両親が“精巣がなくなった”または“精巣がない”と受診することが多い。また、乳児健診にて診断されることも多いが、移動性精巣との鑑別は容易ではなく、停留精巣と診断されても、実際は移動性精巣のこともある。そのため、医療従事者としては、日常から正常の陰嚢ならびに精巣を触れ慣れていることが重要である。また、家庭での普段の陰嚢(精巣)の状態を注意深く観察してもらうことも重要である。

文献
1) Elder JS : Cryptorchidism ; Isolated and associated with other genitourinary defects. Pediatr Clin North Am 34 : 1033, 1987
2) Scorer CG : Congenital Deformities of the Testis and Epididymis. Appletone-century-Crofts,London : 1-117, 1971
3) Hadzselimovic F : Treatment of cryptorchidism with GnRH. Urol Clin North Am 9 : 413, 1982

  • 小児外科看護の知識と実際 (臨床ナースのためのBasic&Standard)メディカ出版 (鼠径部・泌尿生殖器)