概念
小児外科疾患でもっとも頻度が高く、小児外科手術の約1/3~1/2を占める。
胎児期に腹膜の一部が内鼠径輪を通って鼠径管内に入り込み、腹膜鞘状突起が形成される。通常この腹膜鞘状突起は出生時に閉鎖しているが、これが開存したままで、腹腔内臓器が入り込んだ状態が鼠径ヘルニア(外鼠径ヘルニア)、液体が貯留した状態を、陰嚢水腫と呼ぶ。女児では後者に相当するものをヌック水腫と呼ぶ。嵌入臓器は男女ともに腸管が最も多く、女児では卵巣や卵管が入り込んでいることがある。頻度は0.8%~5%といわれており、男児が女児に比べて多く、また右側の発生が多い。1)

図1 右鼠径ヘルニア

図2 左陰嚢水腫
左陰嚢部の膨隆

 

診断
一般的に、腹圧が上昇した時または立位時に鼠径部の軟性の膨瘤として認める。
また、触診上軟性の膨瘤を認めなくても、肥厚したヘルニア嚢と精索が摺れる感覚(silk sign)を認める。多くは、容易に徒手的または自然に還納されるが、容易に還納されないものは嵌頓ヘルニアと呼ばれる。嵌頓ヘルニアの症状は不機嫌・痛み・嘔吐であり、放置すると腸閉塞または脱出臓器の血行障害をきたす可能性があるため、可及的な処置の必要がある。絞扼性ヘルニアの場合は緊急手術の可能性がある。嵌頓ヘルニアは1歳以下が約2/3を占め、特に6ヶ月未満が多い。2)触診以外では、超音波検査にて、腫瘤が腹腔内から連続している脱出臓器であること確認される。
また、嵌頓ヘルニアの場合X-P上鼠径部に腫瘤に一致して腸管ガスを認める。陰嚢水腫は弾力性があり、やわらかく感じることが多いが、緊満して腫瘤様に触れることもある。水腫の診断は透光性の有無で行う。一般的に用手的に圧迫することで水腫が縮小すれば交通性、縮小しなければ非交通性と診断できる。交通性の場合、圧迫により水腫は小さくなるが、立位になると再び膨らんでくる。確定診断が困難な場合には、超音波検査にて水腫を確認することが極めて有効である。診断と治療目的で水腫を穿刺吸引するという方法もあるが、再発率が高く、また誤って腸管や卵巣等を損傷してしまう危険性もあり、あまり推奨されていない。卵巣ヘルニアが非還納性の場合、卵巣の循環障害を引き起こす可能性があるため、無理な徒手整復は避けるべきであり、なるべく早い時期の手術が推奨される。

 

鑑別診断
鑑別診断ではリンパ節炎や腫瘍との鑑別が重要である。

 

治療
鼠径ヘルニアの治療法は基本的に手術療法である。最近では腹腔鏡を用いた手術も行われている。3)しかし、乳児の水腫は鼠径ヘルニアと異なり重篤な合併症を来たすことが少なく、自然治癒率も高い。特に乳児の非交通性水腫では約90%ときわめて高い。 そのため、家族に十分に説明した上で、1歳以降まで経過観察することが多い。治療の適応となるものとしては、

  1. 1歳を過ぎても治癒しない陰嚢水腫
  2. 腹膜鞘状突起の開存率が高い2cm以上の精索水腫
  3. 明らかに交通性を認めるもの

である。治療法としては手術療法が一般的であり、外鼠径ヘルニア手術と同様である。

  実際の手術手技としては、皮膚割線に沿って鼠径部に横切開をおき、外腹斜筋腱膜を切開して鼠径管を開放する(水胞が巨大な場合にはこの時点で排液することがある)。精巣を確認できたら、周囲組織から剥離をすすめる。
そして、精索から精巣動静脈と精管を十分に剥離し、鞘状突起(ヘルニア嚢)を高位結紮する。水腫が多胞性のことや、陰嚢水腫と精索水腫が合併していることもあり、十分に排液できているか確認する必要がある。その後、止血を十分に確認した後閉創し終了となる。

 

豆知識
小児外科疾患でもっとも頻度が高いため、一番接する機会が多い疾患である。明らかにヘルニアが脱出しているときの診断は容易であるが、脱出していないときは診断が困難なケースも多い。そのため、日常の家庭での鼠径部の観察が重要である。また、医療従事者は普段から正常の鼠径部によく慣れていることも重要である。

 
文献
1) Lloyd DA : Inginal hernia and hydrocele. Pediatric Surgery-Fifth edition. : 1071-1086, 1998
2) Misra D : Inginal hemiotomy in young infants,with emphasis on premature neonates. J pediatr Surg 29 : 1496-1498, 1998
3) Schier F : The laparoscopic spectrum of inguinal hernias and their recurrences. Pediatr Surg Int : 1209-1213. 2007

  • 小児外科看護の知識と実際 (臨床ナースのためのBasic&Standard)メディカ出版 (鼠径部・泌尿生殖器)